やっぱりみなさんも食べ物に関する本は好きですよね?「天衣無縫の文章家」として称される武田百合子は、食べることに関する感覚を鮮明な言葉で紡ぎだすことができる人。そんな彼女が、食にまつわる思い出を綴ったのがこの本です。
これだけを読んで、食いしん坊なわたしは「美味しい料理が紹介されるのかもしれない!美味しかった思い出のレストランかも?!」と胸を高鳴らせて、さっそく読みたい本リストにこの本を加えたのだ*
ところが。いざページを繰り出して「ちょっとこれは、想像していたのと違うのかもしれない・・・」と気がつくのに、そんなに時間はいらなかった。石井好子さんのエッセイのように、美味しいお料理がつらつらと書かれているわけでなく。そして例えばレストランで頂いた美味しかったもののことでもなく。小さな子どもだった時に飲まされていた、牛乳の話にはじまり・・・不味かったオムライスや元旦に観に行ったサーカスで嗅いだうどんの出汁などなど。何だかちょっと、辛気臭い。
辛気臭い、という表現に語弊があるのは百も承知の上で、それでもやっぱり、このエッセイ・・・暗い;;;と思っていたら、最後の解説のところでも【そこらにうっすらと死臭が漂いはじめる】という表現がされていて。やっぱり・・・。
でも、暗いことが、死臭が漂うことが悪いわけではないとわたしは思うんだ。それも含めての生。だからきっと、暗さや死の気配を漂わせる、それくらい生に肉薄しているということの裏返しなんじゃないかな?
まだまだ小さかった子どもの頃から、ものすごいスピードで、女学校に通うようになり、自身が結婚し、更にその娘も結婚と離婚を経験して・・・と進んでいく中で、そんなことよく覚えているね、と思わず言ってしまいそうな些細なことをとても丁寧に、淡々とした口調で描いていく。まばたきをしてないんじゃないか、と思うくらい細やかな筆致。もしくは、ずっと目を閉じているような。